【室内栽培者必見】光の強さの3大表現方法

光の強さを表す方法は大きく分けて放射束密度、光合成光量子束密度、照度の3つがある。この記事ではまず波長などの光の基本的性質を説明した後、光の強度表現について説明を行う。

光は粒子!

光とは何だろう。光は波の性質も粒子の性質も備えた不思議な存在であり、長い間アインシュタイン、ニュートン、ホイヘンス、ヘルツなど偉大な科学者たちによってその正体についての議論が行われた。現時点でも、光は波なのか粒子なのか何なのか分かっていないのだが、光合成を評価するならアインシュタインによる 光は


”振動数がνであるhνのエネルギーをもった光の粒の集まり”

という考え方を使うのが良い。懐中電灯から光の粒が振動しながらビーム状に飛び出している様子をイメージしてほしい。

ここで振動数vとは光の粒子が振動している速さ(周期)であり振動数が高い光ほど紫色に見える。因みにみなさんおなじみの波長(λ)は、光の速さを振動数で割ったものである。

h(ハーと読む)はプランク定数と言い、とある値をとる定数である。

数式で表せば

E=hv=h・c/λ

となる。この式は中学や高校の理科の授業で初めにならうものだから皆さんご存知のハズ。

波長と色

光は波長(光子が振動する速さの度合い)によって色々な色に見える。例えば波長550 nm(nmは1 mの10億分の1)の光は緑色に見えるし、660 nmの光は深い赤色に見えるし、450 nmの光は青色に見える。波長400 nm以下と700 nm以上は色が見えない。例えばセラミックヒーターは波長2000 nm~6000 nmの光を放出しているが目に見えない。ヒトの目に見える波長を可視光と言い、その範囲を可視光域という。図1に可視光域の波長と色の関係を表す。

図1 光の波長と色

①放射強度(W/㎡)

各波長ごとのエネルギー強度を足し合わせたものが、放射強度(放射束密度)である。式で言えばE=hv=hc/λをλが0~∞の範囲で積分した値になる。また、光合成に有効な400 nmから700 nmの波長範囲だけの放射強度のことを光合成放射強度と呼ぶ。 式で言えばE=hv=hc/λをλが400 nm~700 nmの範囲で積分した値になる。 単位は、W/㎡。Wはワットと読み、電化製品の消費電力などでおなじみのエネルギーに関する単位である。他にもWの代わりにcal(ダイエットでおなじみのカロリー。エネルギーと時間の積分値)を使ったcal/㎡・s等の表現方法もあるが、現在はW/㎡がよく使われる。。

②光合成光量子束密度(μmol/㎡・s)


 光合成で二酸化炭素 1分子を光合成で消費するためには、8から10個の光の粒子 (光子)が必要だ。 光合成を評価するには光子の量が重要でなので、エネルギーではなく、光の粒子である光量子(光子)の個数で表現した単位が考案された。光合成は葉緑素に入射する光量子の数によって左右され、光合成に有効な波長(葉緑素の吸収波長域)400nmから700nmの光子の単位時間・単位面積あたりに入射する数を、光合成光量子束密度という。単位は μ mol ・m-2・s-1 である。mol(モル)は、化学でおなじみの単位で6.02×1023を個を表す。例えば300 μmol ・m-2・s-1 なら、1 ㎡の面積に1秒間で300 μモル個の光の粒子が入射しているという事になる。

 ちなみに、光合成光量子束密度 は英語で photosynthetic photon flux density(光合成に関与する光子の流速密度)という言い方をし、略してPPFDという呼び方をする。日本でも論文には多くがこの表記方法をとっている。

③ 照度 (lx)

 ヒトの目は、同じエネルギーの光なら、波長555 nmの緑付近の光を最も明るく感じ、逆に波長が赤や紫に近づくほど暗く感じる。つまりヒトの目は、橙、黄、緑あたりの感度が良く、赤、青、紫などの感度は低い。だから住居空間やオフィス・作業場などに適切な強さの照明を設計する場合には、人間の目の感度に合わせた比視感度曲線(図2)を基にした明るさの単位が必要だ。これが照度である。単位は、ルクス(lx、lux)。全光束1 ルーメンの光源が1㎡の面積を照らすときその面の照度は1 ルクスである。あるいは光度1 cd(カンデラ)の光源から1 m離れた面の明るさは1 ルクスである。

図2 比視感度表

 照度はヒトにとっての光の感じやすさを表した指標であるから、植物にとっての明るさ(光合成のしやすさ)とは関係ない。そのため、照度を用いて植物の光環境を評価するのは適切ではなく、最近の多くの学術研究では照度の代わりに、光子の量を表す光合成光量子束密度 が用いられている。

各単位の変換方法

あなたがとある野菜を育てたくて論文を漁っていたら、育成に必要な光の強さはPPFDで100 μmol/㎡・s必要だと分かったとする。しかし手持ちのライトはルクスでの表記しかなく、ルクスをPPFDに変換したいとする。この場合、mとcm(1 m=100 cm)みたいにPPFDとルクスの間に一定の関係があるわけでなく、使用するライトの波長スペクトル(どの波長がどれくらいの強度で含まれているか)によってさまざまに変化する。ここでは白色LED、太陽光、植物工場用赤・青混合LED、メタルハイドランプ、赤色LED、青色LEDを使った時のルクスとPPFDの関係についてだいたいの値を紹介する。任意の波長スペクトラムを持つ光源のルクスとPPFD算出には、 波長スペクトラムと標準比視感度曲線とプランクの定理(E=hv)を用いる。

白色LEDライトでの換算表

照度(lx)  
PPFD(μmol/㎡・s)
1001.35
100013.5
500067.5
10000135
50000675
1000001350

太陽光での換算表

照度(lx)  
PPFD(μmol/㎡・s)
1001.7
100017
500084.0
10000170
50000840
1000001700

波長660 nm赤色LED での換算表

照度(lx)  
PPFD(μmol/㎡・s)
10013.2
1000132
5000660
100001320
500006600
10000013200

波長450 nm青色LED での換算表

照度(lx)  
PPFD(μmol/㎡・s)
1006.3
100063
5000315
10000630
500003150
1000006300

植物工場用赤・青混合LEDでの換算表

照度(lx)  
PPFD(μmol/㎡・s)
10011.4
1000114
5000570
100001140
500005700
10000011400

メタルハイドランプ での換算表

照度(lx)  
PPFD(μmol/㎡・s)
1001.6
100016
500076
10000160
50000760
1000001600

高圧ナトリウムランプ での換算表

照度(lx)  
PPFD(μmol/㎡・s)
1001.4
100014
500072
10000140
50000720
1000001400

 とある文献では白色LED植物工場でのレタスの育成に必要な照度は10000 lxである。一方別文献ではレタス育成にはPPFDで180 μmol/㎡・sとなっていた。上の表を見ると白色LEDを使ったPPFD180 μmol/㎡ はだいたい10000 lxとなり、妥当な値であることがわかる。

今日の講義はここまで!