空気と水と電気だけでたんぱく質を生産する宇宙ベンチャー”Solar Foods”

農業、漁業、畜産業・・・これらを育てる方法以外で食を作り出す画期的な方法を提案しているベンチャー企業がある。”Solar Foods”と (ソーラーフード )いうフィンランドの会社だ。 ソーラーフード 社はなんと空気と水と電気だけでたんぱく質を生産する技術を開発したのだ。今回はその技術の詳細と、食糧自給応用への可能性についてレビューした。

ソーラーフード社について

ソーラーフード社は農業以外の手段で食品を生産するテクノロジーを開発する食品技術開発会社だ。同社のチームメンバーは再生可能エネルギーVTTテクニカルリサーチセンターの元主任科学者Pasi Vainikka(博士)と、バイオプロセスエンジニアリングの元主任研究員Juha-PekkaPitkänen(CTO)とその他数人で構成されている

ソーラーフード社長の Pasi Vainikka博士

 同社は”Solein”という独自の画期的な技術を使って、空気、水、電気から天然タンパク質の生産を実現する。Soleinによって生み出されたたんぱく質は、食品に加えて栄養を高めたり、動植物たんぱく質減としての代替に使ったり、培養肉形成のための材料として応用したりと、食の新たなイノベーションを生み出してくれそうだ。ちなみに同社のビジョンは世界の”食料危機の解決”で自給ラボのビジョンとも通じる部分がある。

肝心の技術の詳細は!?

 技術の詳細はWEBページ上では見つけられなかったが、Pasi氏のプレゼンテーションがyoutubeにアップされていたのでそこからいくらかの情報を得られた。

まずたんぱく質の元となるのはとある菌だ。菌を試験管の中で増殖させて、それを乾燥させた小麦粉のような粉が最終製品だ。パンの発酵に使うドライイーストのようなサラサラした白い粉を思い浮かべるとよいだろう。同社が使う菌は、イースト菌のように砂糖を消費して二酸化炭素を出すものとは全く異なる。二酸化炭素を原料に、水素をエネルギーとして利用することで糖やそこから派生する様々な物質を生み出すのだ。

ソーラーフード最終製品のイメージ

これ以上の詳しい説明は見つからなかったので、ここからは自給ラボ管理人による同社のたんぱく質合成方法を推定してみた。まず、リアクターの構造だが、ビーカーに様々な微量のミネラル(おそらく水耕栽培で使う液肥と同じような成分)を溶かした溶液に、菌を入れ、エアレーションで大気中のCO2を供給しつつ電極を入れて電気分解することで水素を供給する。これで菌の増殖に必要な条件の”CO2”、”水素”が揃う。しかしこれでは増殖の最低条件が揃っただけだ。通常菌の培養は培地を増殖しやすい温度にする必要がある。これをしないと増殖速度が著しく低下するからだ。1gの菌を得るのに何か月も待つのは現実的ではない。おそらく先ほど説明したリアクターのビーカーの溶液を菌の培養最適温度に保つために恒温槽に移す。これでようやく増殖が目に見える速度で始まる。数日が経過すれば、溶液中のミネラルをすべて使いつくして菌の数は定常状態(これ以上増えない状態)に達するだろう。次はこの菌を溶液から取り出す作業が待っている。加温などにより溶液に含まれる水分を飛ばし、菌のみを得る。水の気化熱は大きいから非常にエネルギーを消費する作業だ。こうして菌の乾燥物が得られる。しかしこれで終わりではない。乾燥物には菌以外にも溶液に加えていた微量のミネラルのうち消費されなかった分が結晶化して残るだろう。いうなれば、小麦粉と塩をミックスしたような状態だ。ここから結晶だけを取り除くのは難しいから、はじめから過不足なく消費されるミネラル量にしておくなどさらなる改良が必要だろう。電気から食料を作る!というキャッチフレーズは心を躍らされるが、その実現はまだまだ研究開発が必要なのかもしれない。

”電気で”という表現はインパクトがあるが・・・

Aさんが言った。”野菜を畑で育てて食を自給している”と。驚く内容ではない。

Bさんが言った。”LED(ライト)を使ってアパートの一室でレタスを育てている”と。それができることは大抵の人は知っているし驚かない。

Cさんが言った。”電気からレタスを魔法のように生み出して自給している”と。そんなすごい発明をしたのか!と一瞬驚きその詳細を聞きたくなる。

しかしCさんの家に行くとLEDを使って室内でレタスを育てていただけだった。電気があればLEDを点灯させてレタスたちが二酸化炭素から養分を作り出すエネルギーを与えれる。Cさんが言う。”大気中の二酸化炭素と、ミネラルを溶かした溶液と、電気だけで食糧ができる画期的な技術だ!”と。言っていることは確かに間違っていない。だがきっとCさんの家に行った人は騙された気分だろう・・・

今回紹介した電気と二酸化炭素から食を作る菌の技術も、菌の増殖に必要な水素を調達する手段として電気を使っただけである。野菜の増殖に必要な光を調達するのに太陽でなく電気で光らせたLEDを使いました、というのと同等だ。じつは”電気で”というすごいキャッチフレーズは誇張表現である気もするが・・・

ちなみに皆さんご存知の”ミドリムシ”を使った健康食品を販売する株式会社ユーグレナだって、ミドリムシの培養にミネラル溶液と二酸化炭素と電気(のちにLEDで光に変換)を使っており、電気から食を生み出す画期的なテクノロジーを持った会社、ともいえるだろう!

表現はどうあれ、電気から食が生み出されている事に変わりはなく、新たな食のあり方へのトリガーとなりうると管理人は感じる。太陽光発電で得た電気エネルギーでこの魔法の粉を量産して、そこから家畜の飼料にしたり、培養肉にしたり・・・さらにはこれを火星でやったり!・・・・といった未来がもうすぐやってくることに皆さんも心が躍らないだろうか?